約1年前、シネマテ-クたかさきで見た「人生フル-ツ」という映画がホリゾント賞(野心的・革新的作家性を備え、日本映画界の未来を照らすであろう作品に与える賞)を受賞し、映画祭で3日間連続上映されました。
「人生フル-ツ」は、愛知県の高蔵寺ニュ-タウンに住む建築家、津端修一さん90歳、妻の英子さん87歳の老夫婦の日常を映したドキュメンタリ-映画です。
1960年代、建築家の津端さんは自然との共生を目指し高蔵寺ニュ-タウンの計画を始めましたが、経済性、合理性を優先する時代に合わず、当初の理想は実現できませんでした。そこで津端さんはニュ-タウンの中に土地を購入し、家を建て、雑木林を育て始めたのです。
夫婦で畑を耕し、果樹を手入れし、英子さんは収穫したたくさんの野菜や果物で日々の料理を作ります。何でも手作り、自分たちでできることは可能な限り自分たちの手で、質素だけれど豊かな暮らしを50年続けてきました。
自宅は津端さんが尊敬するアントニン・レ-モンドの自邸に倣って設計、平屋ですが高窓から光を取り入れ、のびのびした居心地の良さそうな雰囲気が伝わってきます。
日々の健やかな暮らしが人生という果実を育て、住まいも住む人と一緒に歳を取り味わいを深めていく。瑞々しい遊び心とゆっくり積み重なる時間が、美味しいフル-ツのような人生を作る。歳を取ることは美しい、と素直に思える素敵な映画でした。
この映画は東海テレビが制作、先日テレビでも放映されました。現在も全国各地で上映会が開かれており、静かなブ-ムとなっているようです。
28日の上映後には、建築家の水上勝之さんをゲストに迎え関連企画も開催されました。
≪スクリ-ント-ク≫
アントニン&ノエミ・レ-モンドと『人生フル-ツ』
~人生100年時代に向けて~
群馬音楽センタ-を設計した建築家レ-モンド、津端邸も高崎にある旧井上房一郎邸も、共にレ-モンドの自邸に倣った住宅で、とてもよく似ています。映画と井上邸と両方鑑賞すれば、レ-モンド・スタイルの津端邸の雰囲気が想像でき、より一層おもしろいことと思います。