人が何か作業をすると、材料や道具やらがあちこちに散らかって、乱雑になります。そこで、ひと区切りついたところでゴミを捨て材料や道具を元の場所に戻し、燃料を補給したり、修理や手入れをして整えます。
毎日の家事に始まり、季節の変わり目、年末年始、人生の節目…。私たちの日常生活は「乱しては整え」の連続です。
日常を整えておくことは、いざという時にイレギュラーが2重3重に重なり、パニックに陥るのを防ぐという意味で危機管理の基本とも言えるでしょう。
家を新築、リフォームするのも、「生活を整える」重要な作業だと思います。
人生の節目に、ご自身やご家族のこれからの生活を長いスパンで見据えて「整える」のです。
最近はともすれば省エネや予算の情報ばかりが独り歩きし、住宅を建てることをまるで家電品を買うような感覚で考えるような風潮があり、危惧されます。
もっともっといろんな夢や希望、問題点を出し合い、知恵を引き出し合って、存分に設計の打ち合わせをしましょう。
団らんや趣味、食事や睡眠、子育て、老後、介護…。
環境との調和、必要なスペースや空間とそのつながり、コミュニケーションとプライバシー、外装や各部屋の仕上げ材、収納や家事動線、動と静のバランス、省エネや温熱環境、スイッチ、コンセント、設備機器、予算とローン返済…。
日常はもちろんの事、いざという時も住まいが自分や家族の味方になってくれるように、予想される様々な事態をシミュレーションし、知恵や工夫を間取りや仕様に仕組んでいきます。
住宅の設計というのは、住む人がこれから生きていく上での様々な要素を整える作業、つまり、「人生を整える」大切な作業だと思います。
中島桂一
会社のロビーで大きな海水魚水槽を始め、11年が過ぎました。
現在、縦横60cm、長さ1.8mの水槽で、16匹の魚とナマコ、イソギンチャク、サンゴ達が元気に育っています。
餌やりの他に毎日バケツ2杯分の水換え、毎週休日にはガラスや浄化装置の掃除、その他人工海水を作ったり、照明や殺菌灯、ポンプのメンテナンス‥。
コツコツと11年も続いたのは、魚やサンゴが可愛くて美しいというだけでなく、水槽の管理は家づくりと共通することが多いからです。
中でも私が最も勉強になると感じているのは石のレイアウトです。
魚たちの「秘密基地」
水中を泳ぎ回っている魚たちも、夜間や異変を感じた時は、たちまち石やサンゴの陰に隠れてしまいます。また、時として寝床となる石の窪みやトンネルの縄張争いで激しいバトルを繰り広げます。
どうやら我々が普段、空気に棲んでいるとは意識しないように、彼らも水を意識することはなく、石や砂、サンゴに住んでいると感じているようです。
そこで、それぞれ個性的な彼らがどんな「秘密基地」を必要としているのかを観察しました。
親分肌のキイロハギには体に見合ったやや大きめの竪穴洞窟が必要なようです。
人間のように横になって寝るナンヨウハギは体をはさんで固定する横穴のスリットが必須。
相部屋が好きなアカネハナゴイに個室派のデバスズメダイ。ハシナガベラは…。ミナミハコフグは…。
お客様の要望を取り入れながら家の間取りを考えるのとそっくりです。
退屈させない工夫
夜、安心させるだけでなく、昼間、退屈させない工夫も重要です。
広くて綺麗な南の海から連れてこられたのですから、せめて「ここはここで悪くないね」と思ってもらいたいものです。
そこで、それぞれの「秘密基地」を利用しながら、石のレイアウトをさらに工夫します。
回遊コースを複数想定し、くぐるところ、すり抜けるところを作ります。さらに、突っつくところ、砂を吹くところ…。寄せては返す波のようにイソギンチャクをそよがせたり…。
水流、光の当たり方、サンゴの成長も計算に入れて石を組みます。
「飼育」だけでなく「鑑賞」も大切な目的ですから、見た目にも美しく、あたかも自然による偶然の造形であるかのように…。
まさしく建築や造園と同じ。条件が厳しいほどワクワク係数が上がります。
家づくりも環境づくり
ハコフグやナマコは別として、ほとんどの魚は直接触れることができません。私にできることは、間接的に彼らの環境を整えてあげることだけです。
でも、環境さえ良ければ、魚もサンゴも健康で生き生きとして、見た目も色鮮やかで美しいものです。石と住みかを改善したことで、魚たちの寿命は劇的に延びました。
そこに住む人にとって良い環境とはどんな環境かを考え、それをどうやって作り出し、維持していくか…。
家づくりも水槽と同じ。いゃー 勉強になります。
中島桂一
最近、あちこちで「ワクワク○○」という言葉を耳にします。今年の箱根駅伝で優勝した青山学院大学は、「ワクワク大作戦」を合言葉に走ったそうです。
当社でも以前から、打合せの時にたびたび「ワクワク係数」という言葉が飛び出しています。例えば要件を満たす2つの案のどちらが良いか迷った奥様が、「こっちの方がワクワク係数が高いわね!」という具合です。
今から25年前、建築の仕事を始めるにあたり、勉強のために北米、北欧を中心に、木造住宅をテーマにした世界一周旅行をしました。
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| F.L.ライト設計の落水荘 (ピッツバーグ近郊) |
カナダ、アメリカ、フィンランド各地で知人を頼ってのホームステイ。オレゴンでの寮生活。フランク・ロイド・ライト設計の「落水荘」をはじめとする有名建築家の作品群。緑豊かな住宅街もあれば、砂漠の中に突如出現する住宅団地もあり。北欧の野外博物館に建つ古いログハウス。注文住宅、建売住宅、中古住宅、オープンハウス‥。
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| A.ガウディ設計のカサミラにて (バルセロナ) |
帰国後、様々な住宅や生活の体験を振り返ってみた時、中でも思い出しただけでワクワクするような住宅には、共通した3つのキーワードがあると感じました。
1つは「環境」です。
良い住まいは周囲の環境と良く馴染んでいました。それは、単なる意匠のテクニックではなく、設計段階において街並みや風景、歴史や気候風土、地形などからのアプローチが十分に練られている結果だと思われます。
また、家の中も自然と触れ合うインテリアデザインとなっています。つまり、光や風との対話、人に優しく温もりを感じさせる内装素材、潤いを与えてくれる植栽、眺めのいい窓、暖炉など。室内空間を単なるハコではなく、人が暮らす環境として捉えていると感じました。
さらに、土間やポーチ、デッキやパーゴラなど、「内」と「外」という異なる環境をつなぐ工夫のバリエーションも、ワクワク係数をグングン高めてくれます。
2つ目は「個性」です。
印象的な家にはそこで暮らすクライアントの個性、すなわち住む人の「その人らしさ」が良く表れていました。
それは間取り、色や形、材質やディテールなどに表れるその人の性格や好み、価値観や人生観であったり、都会的かカントリー調かといったライフスタイルであったり、さらにはアトリエや書斎、ジャクージーやガレージなどの趣味の空間であったりします。
それも外から形だけを持って来て真似たのではなく、住む人自身の中から出てきたオリジナルであることに益々ワクワクします。
3つ目は「コミュニケーション」です。
暖炉のあるリビングや暖かみのある照明計画。家族や友人でシェアできるアイランドキッチン、キッチンとダイニングの適度にオープンなつながり、ホームパーティーを意識した間取りなど、家庭内の「だんらん」と家庭を取り巻く人々の「もてなし」を上手に演出し、心と心が通い合う住まいも愛情ワクワクです。
「環境」「個性」「コミュニケーション」。
ワクワク係数の3つのキーワードは、国の内外、時代の新旧を問わずに共通した要素だと思います。私もこの体験を家づくりに生かしてきました。
3つのキーワードを基本コンセプトに、さまざまな要望や提案を出し合って一緒にプランを練り上げていく過程は、それ自体がお客様にとっても、私たちにとっても実にワクワクする体験です。
もちろん敷地や予算などの制約はありますが、人や自然を結び、住む人それぞれの「らしさ」を大切にして、出来るかぎり「ワクワク係数」の高い住まいづくりをこれからも続けていきたいと思っています。
中島桂一
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| AO邸(高崎市) 設計施工:中島林産(株) |